自己分析をやらなきゃとは思っている。でもワークシートを前にすると手が止まる。「強み」も「価値観」も、書こうとすると就活生みたいな言葉しか出てこない。

この記事はそういう人向けです。

先に立場を明かしておくと、私は採用側の人事として面接で応募者の話を聞く側にいて、その前は転職エージェントとして面談で求職者の自己分析に付き合う側にいました。だからこの記事は「自己分析のフレームワーク紹介」じゃなくやった結果が面接でどう見えるかという出口から逆算して書きます。出口を知るとやるべき作業が驚くほど絞れるので。

面接官に「浅い」がバレる瞬間

面接する側から言うと、自己分析ができているかどうかはこちらから確認しにいくものではありません。

勝手に露呈します

典型例はこうです。「強みはなんですか」→「調整力です」→「具体的にはどういう場面で発揮されました?」→ ここで沈黙するか、直前の答えと噛み合わないエピソードが出てくる。

面接官は最初の答えをほとんど聞いていません。聞いているのは2つ目、3つ目の掘り下げ質問への答えです。1問目は誰でも準備してきますよね。2問目で言葉が続くかどうかが、自分の過去を本当に振り返った人と、模範解答を覚えてきた人の分かれ目になる。面接官側はこれを意図的にやっています。深掘りは意地悪じゃなく準備した言葉の下に本人がいるかの確認作業なんです。

だから自己分析の合格ラインは「きれいな強みを言えること」ではなく、どの答えを2段掘られても事実で返せること。ここから逆算するとやるべきは「強みを考えること」ではなく「事実を並べること」だと分かります。

自己分析の実務は「過去の棚卸し」が9割

エージェント時代の面談でやっていたことも結局これでした。

求職者に「強みは?」と聞いても大半は答えられません。でも「前の職場で一番しんどかった時期の話をしてください」なら全員話せる。自己分析とは抽象的な問いに答えることではなく、具体的な過去を並べてから共通項を拾う作業です。順番が逆なんです。

面接に耐える自己分析の3ステップ

1 事実を並べる 職歴を1年刻みで「やったこと・きつかったこと・褒められたこと」で書き出す 2 感情に印をつける 楽しかった箇所と消耗した箇所に印。理由はまだ考えない 3 共通項を言葉にする 印の共通点だけを短い言葉にする。それが「軸」と「強み」の原料

順に補足します。

ステップ1、事実の書き出し。 職務経歴を1年ごとに区切って「やったこと」「きつかったこと」「人に褒められたこと・頼られたこと」を箇条書きにします。文章にしない。かっこよくしない。ここで美文を書き始めると、面接で掘られたとき崩れる「盛った自己分析」になります。ステップ2、感情の印つけ。 並んだ事実に「これは楽しかった」「これは消耗した」の印をつけるだけ。理由は後回しです。先に理由を考えると、「成長できたから楽しかった」のような借り物の理屈が混ざるので。ステップ3、共通項の言語化。 楽しかった印の共通点、消耗した印の共通点を短い言葉にします。「裁量があると動ける」「板挟みの調整が続くと削れる」。この程度の生活感のある言葉で十分だと思っています。面接で強いのは立派な言葉じゃなく事実とセットで出てくる言葉なので。

やりたいことが見つからない場合の考え方は別の記事に書きましたが、あちらも結論は同じです。軸は探すものではなく消去法で残るもの。

棚卸しを「強み」に変換する、3つの箱

事実は並べた。感情の印もつけた。で、それを面接で使う言葉にどう変えるか。

ここで使えるのが、採用側が実際に評価シートで見ている枠です。会社ごとに様式は違いますが、私が使ってきたシートはビジネススキルの欄を「見立てる・仕立てる・動かす」の3つに分けていました。

自分はどこが厚いか——3つの箱に仕分ける

1 見立てる 状況を読んで、何が問題なのかを特定する 2 仕立てる 解決の筋道と段取りを設計する 3 動かす 実行する。人を巻き込み、狂ったら立て直す

これ、もとは公的な枠組みです。厚生労働省が「ポータブルスキル」として9つの要素を定義しています。「仕事のし方」が現状の把握・課題の設定・計画の立案・課題の遂行・状況への対応の5つ。「人との関わり方」が社内対応・社外対応・上司対応・部下マネジメントの4つ。これに専門知識・専門技術を足した3分類が全体像です(厚生労働省 ポータブルスキル見える化ツール)。

正確な分解だと思います。ただ9個は多い。

だから現場では、見立てる=現状の把握と課題の設定、仕立てる=計画の立案、動かす=課題の遂行と状況への対応と人との関わり方、というくらいの粗さに畳んで見ていました。棚卸しに使うなら3つで十分です。

やり方は簡単で、ステップ1で書き出した「褒められたこと・頼られたこと」を、この3つの箱に放り込むだけ。

  • 「あの問題に最初に気づいたのは君だった」→ 見立てる
  • 「段取りを組ませると早い」→ 仕立てる
  • 「あの人がいると話が前に進む」→ 動かす

たいてい偏ります。偏っていいんです。3つ全部が厚い人はまずいないので、面接官も「どこが厚いか」しか見ていない。むしろ全部そこそこですと言われるほうが困ります。

強みを形容詞で言うと浅く聞こえるのは、この箱を経由していないからです。 「調整力があります」は、見立てるのか仕立てるのか動かすのか分からない。「関係者の言い分がずれている場所を先に特定してから動く癖があります」なら、見立てるの人だと伝わる。同じことを言っているのに、後者だけが事実に着地しています。

「できている人」の答え方は何が違うか

採用側として面接していて「この人は自分のことが分かっているな」と感じる応募者には、共通のしゃべり方があります。

面接での聞こえ方の差

浅く聞こえる答え 強みが形容詞(コミュ力・向上心 エピソードが1つを使い回し 弱みが実は長所(頑張りすぎる) 転職理由と志望動機がつながらな 深く聞こえる答え 強みが行動(〜のとき〜する癖がある) 別の質問に別の事実で答えられる 弱みを事実+対処セットで言える 辞める理由と選ぶ理由が同じ軸の裏表

とくに最後の行。効きます。

「裁量がなくて辞めた」人が「安定していそうだから御社」と言うと、面接官の中で警報が鳴ります。軸が1本通っている人は転職理由・志望動機・逆質問まで全部が同じ幹から生えている。これは面接テクニックでは作れなくて、たぶん棚卸しをやった人にしか出せない一貫性です。

面接官が見ているのは、自己分析をどれだけきれいに仕上げたかではありません。この人は自分の取扱説明書を持っているか、入社後にミスマッチで潰れないかを見ています。自己分析は面接を通過するための儀式ではなく、あなた自身の防具です。ここを飛ばして内定だけ取れてしまうと、同じ不満で数年後にまた転職活動をすることになる。エージェント時代には、同じ不満を抱えて再び転職を考える人からの相談をかなり受けました。

棚卸しを書類に落とすところで止まったら、職務経歴書チェックリストの項目を先に見てから書くと、材料の不足がどこかはっきりします。

完璧にしてから動かない

最後に一つ、順番の話を。

自己分析が終わってから応募しようと考えると永遠に終わりません。棚卸しは一晩でひととおりやって、あとは応募と面接のなかで更新していくものです。実際、自分の言葉が一番磨かれるのは面接で掘られて答えに詰まった直後だったりします。悔しいですけど、あれ以上の教材はない。詰まった質問をメモして帰り、棚卸しの表に1行足す。この往復が実務としての自己分析です。

次の工程は書類です。棚卸しの表は職務経歴書の原料にそのまま使えます。→ 職務経歴書の"読まれ方" / 面接官が確認している3つのこと / シリーズ全体は転職活動の全体地図へ。