「転職の軸を決めましょう」。
よく言われます。
エージェントにも本にも書いてある。でも、決め方は誰も教えてくれない。
そして多くの人が、軸を「立派な志」だと思ってしまいます。社会に貢献したい。成長できる環境。ノートの1行目にそう書いて、書いた瞬間に自分で嘘くさいと感じて線を引き、結局そのノートを閉じて求人サイトのタブに戻る。そして条件で絞った求人を眺めながら、これも違う気がすると思ってまたノートを開く。あの往復、私も転職者としてやりました。夜中にやると特にきつい。
軸は志ではありません。 選ぶときと断るときに使う、自分用の判断基準です。しかも採用側は、その基準が一貫しているかどうかを見ています。私は人事として合否会議に出ていた側で、その前はエージェントでした。両方から見た軸の話を書きます。
採用側が「軸」を見ている場所は、定着の欄
まず、採用側の事情から。
合否会議で最後まで割れるのは、たいてい2つです。活躍するか。定着するか。部門は実力面を見て、人事のほうは入社後に活躍できるかと長く続くかを見るので、同じ人を見ていても不安を感じる場所がずれることがよくあります。人事はリスクを嫌います。
このうち定着の判断で、実際に見ているのが軸の一貫性です。
採用側が定着を判断するときに見ている順番
誤解されがちなので、はっきり書きます。
定着は転職回数では判断されにくい。 回数が多くても選び方の方向が揃っていれば「この人はこういう基準で会社を選ぶ人だ」と読めるので、次もその基準で選んだ結果ここに来たのだと理解できます。逆に1回しか転職していなくても、話している志向性と応募している会社の並びがちぐはぐだと、こちらの手元には不安だけが残る。
ここは転職回数より在籍期間の並びにも書きました。
見られているのは、数ではなく形です。
軸というのは、面接の答えを作るためのものではなく、あなたの過去と未来をつなぐ線として見られています。
だから立派である必要がまったくない。
「家から近い」でも線になります。
軸が決まらない本当の理由
多くの場合、材料が足りないのではありません。
順番の問題です。
やりたいことから作ろうとしているから決まらないんです。
やりたいことは、たいてい経験の中から後から出てきます。今この瞬間に頭の中を探しても、出てこないものは出てこない。探せば探すほど、見つからない自分に問題があるように思えてきて、しんどくなるだけです。
私は面接で「やりたいことがない」と正直に言う人を何人も見てきましたが、その人たちの話が薄かったかというと逆でした。「やりたくないこと」から輪郭を作った人のほうが、話が具体的で、こちらも入社後の姿を想像しやすかった。
軸は探すものじゃない。
削って残るものだと思っています。
4つの問いで、紙1枚に落とす
やり方を書きます。
紙とペン。30分。それだけあれば終わります。
問いは4つ。
順番が大事なので、上から埋めてください。
問い1: 今の職場で、いちばん消耗しているのは何か。 人間関係か、業務量か、評価か、仕事の中身か。ここは遠慮なく書いてください。誰にも見せない紙です。
問い2: それは、会社を変えれば消えるか。職種を変えないと消えないか。 この切り分けが軸の骨格になります。会社の問題なら同職種で転職する軸になるし、職種の問題ならキャリアチェンジの軸になる。ここを飛ばすと、同じ不満に3年後また会います(転職すべきかの判断)。
問い3: 過去の自分は、何を基準に選んできたか。 新卒の会社をなぜ選んだか。前回の転職で何を優先したか。ここに一貫性のヒントが埋まっています。自分では意識していなかった基準が出てくることが多いです。
問い4: 次の会社で、絶対に譲れないものを2つだけ選ぶとしたら。 3つ以上選ぶと軸になりません。2つです。給与、勤務地、裁量、仕事内容、働き方、事業の中身。並べて2つに削る。

削るのがしんどいのは分かります。
でも年収も勤務地も仕事内容も働き方も、という具合に条件を4つ5つと重ねていくと、その全部を満たす求人は市場にほとんど出てこなくなります。私はエージェント側で、希望を足しているうちに紹介できる求人が画面から消えていく面談を何度も見ました。
悔しいけれど、そういうものです。
4つの問いを紙1枚に落とす作業は、転職判断シートの上でそのままできます。
「聞こえのいい軸」を作ると、面接で崩れる
面接の現場の話をします。
面接用に軸をきれいに作り直す人がいます。
気持ちは分かります。成長したい、裁量が欲しい、社会に貢献したい。悪くはない。ただ、一段掘られると崩れます。
面接官は深掘りをします。なぜ成長したいのか、いつそう思ったのか、前職ではなぜできなかったのか。用意した言葉の下に自分で考えたことがないと、ここで答えが急に浅くなる。質問とズレる。
掘られてもズレないなら、準備した言葉を使って構いません。 問題は暗記ではなく、暗記の下が空っぽなことです。
軸として機能する/しない
右側は、どれも4つの問いを埋めていけば自然に出てくる形です。生々しいけれど、掘られても崩れない。「家庭の事情で動かせない」を軸にするのは弱そうに見えますが、採用側から見ると読みやすくて助かります。判断がぶれない人だと分かるので。
軸ができたあと、最初にやること
軸を作った直後にやるべきなのは、自己分析の続きではありません。
真逆です。
求人を見ることです。 作った軸で検索して、実際に何件出てくるかを見る。ゼロなら軸が細すぎるし、5000件出るなら広すぎる。この作業を挟まないと、頭の中だけで何ヶ月も回り続けます。
私も迷っていた時期、頭の中だけで考えている間はまったく前に進みませんでした。求人を実際に開いて、条件と給与と仕事内容を並べて見た日から、急に判断が具体的になった記憶があります。
軸は一度決めたら固定するものでもないです。書類を書き、面接を受け、断られる。そのたびに少しずつ形が変わっていくもので、活動の途中で更新するほうが自然だと思います。ただし方向はそんなに変えない。方向が毎週変わると、併願先の並びから軸が読めなくなって、面接で説明が苦しくなります。
まとめると、こうです
軸に必要な条件は3つだけ。
短いです。
- 過去の選び方と繋がっている
- 譲れないものが2つに絞れている
- 掘られても、自分の言葉で説明できる
立派さは条件に入っていません。 この3つが揃っていれば、面接で聞かれる転職理由も志望動機も5年後も、同じ1本の線から答えが出てきます。準備が一気に楽になります。