「やりたい仕事が分からないから転職活動が始められない」。

この順番で止まっている人に面談で何百回も同じ話をしてきました。なのでここにも書いておきます。「やりたいこと」が先に見つかってから転職する人は少数派です。 大多数はやりたいことが曖昧なまま動き出し、動きながら少しずつ輪郭がはっきりしていく。

順番が逆なんです。

エージェントの面談は「やりたいことを聞き出す場」だと思われていますが、中の人の実感は違いました。あの質問で本当にやっていたのはやりたいことの発掘ではなく、「絶対に嫌なこと」の特定です。この記事ではその面談の裏側の手順を自分で使える形にして渡します。

「やりたいこと」が見つからないのは、あなたの欠陥ではない

まず前提の整理から。やりたいことが明確な人というのは、たまたま①経験の中に強い快の記憶があり②それを言語化する機会があった人です。どちらも運の要素が大きい。やりたいことがないのは内省が足りないからでも情熱がないからでもありません。単にまだ材料と言語化の機会がなかっただけ。それなのに面接でも面談でも「やりたいことは?」と聞かれ続ける。だから、ないことが欠陥のように感じられてくる。

あれはつらいですよね。エージェント側の種明かしをひとつ。面談でこの質問に立派な答えが返ってくることは、ほとんどありませんでした。最頻出の回答は「特にないんですけど、今の仕事は違う気がして」。そしてそこから始まる転職は普通に成功します。

面談でやっていたこと:Will(やりたい)ではなくWon't(やりたくない)から入る

消去法で軸を作る4ステップ

1 ①嫌だったことを全部書く 業務・環境・人間関係、粒度は問わない 2 ②「二度と嫌」に星をつける 我慢できる嫌と、消耗する嫌を分ける 3 ③星を裏返す 「二度と嫌」の反対語が、あなたの必須条件 4 ④残った条件で求人を絞る Willがなくても求人は絞れる

手順は単純です。これまでの仕事で嫌だったことを粒度を気にせず全部書き出す。「上司が高圧的だった」「数字だけで詰められた」「同じ作業の繰り返し」「成果が見えない」。

何でもいい。

次にその中から「我慢すればやれる嫌」と「続けると自分が削れる嫌」を分けます。後者に星をつける。この仕分けは、次の仕事を選ぶうえで欠かせません。全部を避けようとすると求人がゼロになります。星は2〜3個まで。そして星を裏返します。「数字だけで詰められるのが二度と嫌」なら「プロセスも評価される環境」が必須条件。「同じ作業の繰り返しが嫌」なら「業務に変化がある仕事」。これでもう求人を絞る軸ができています。

やりたいことは1つも出てきていないのに、です

面談でエージェントがやっていたのは突き詰めればこの作業の対話版なんです。「やりたいことを聞き出してくれるプロ」に見えて実際は「嫌なことを整理して求人在庫に接続する人」。だったら前半の整理は自分でできますよね。

「やりたいこと駆動」の転職が持つ、あまり語られないリスク

これは採用側の席から見えた話です。強い「やりたいこと」を掲げて入社した人は入社後のミスマッチに弱い傾向があります。理想の解像度が高いぶん、現実の仕事に必ず含まれる泥臭い部分(どんな仕事にも地味な作業がついてきます)とのギャップが失望に変換されやすい。

逆に「嫌なことがない環境」を基準に選んだ人は期待値が現実的です。静かに定着して数年後に「気づいたらこの仕事が好きになっていた」と言ったりする。人事として定着面談で聞く「この会社に決めてよかった理由」は、入社前の志望動機とズレていることのほうが多いんです。やりたいことは入口の条件ではなく続けた結果として後から生成されるものなんだと思います。

断言はしません。でも現場で見てきた実感としてはかなり確度の高い仮説です。

「やりたくない」から埋めていく欄を転職判断シートに置いてあります。

それでも面接では「やりたいこと」を聞かれる問題

実務上の問題が残ります。軸が消去法でできていても、面接では「やりたいことは?」「志望動機は?」と聞かれる。「嫌なことがない職場を探してます」とはちょっと言えない。

ここは翻訳の問題です。

消去法の星は裏返せば全部ポジティブな言葉になります。「数字だけの評価が嫌」→「プロセスから顧客と向き合いたい」。「変化がないのが嫌」→「幅を広げられる環境で伸びたい」。嘘じゃありません。同じ事実を面接で通じる言語に翻訳しただけ。面接官が確認したいのは結局3つだけなので、翻訳した軸が「②続くか」の答えとして機能すれば十分です。

消去法の軸を面接語に翻訳する

自分用の本音(消去法) 詰められる文化が二度と嫌 単調な繰り返しが嫌 成果が見えないのがつらい 面接で話す翻訳 建設的なフィードバック文化で働きたい 業務の幅を広げ続けたい 成果が可視化される仕事がしたい

やりたいことが見つかるまで動けないという縛りは今日で外してください。嫌なことなら、あなたはもう十分な材料を持っています。

必要なのは紙1枚と30分。

転職すべきかどうか自体まだ迷っている人は判断軸の記事から、動き出す準備ができた人は全体地図からどうぞ。