「辞めたいけど、これって逃げなんじゃないか」。
この罪悪感で動けなくなっている人に最初に言っておきたいことがあります。「逃げかどうか」は転職の判断軸として使いものにならないんです。 同じ退職でもうまくいけば「決断」と呼ばれる。うまくいかなければ「逃げ」。結果論のラベルであって事前の判断には何の役にも立たないからです。エージェント時代に面談へ来る人の相当数がこの罪悪感を抱えたままでした。実際、「逃げじゃないか」と悩む人ほど逃げとは程遠い人でした。本当に何も考えず辞める人はそもそもこの問いで悩みません。悩んでいる時点であなたは十分に踏みとどまって考えています。
罪悪感はいったん横に置く。代わりに使える判断軸を3つ渡します。
軸1:その不満は「会社の問題」か「職種の問題」か
辞めたい理由を紙に書き出して一つずつ「会社を変えれば消えるか?」を問うてください。
上司が合わない。評価制度が納得できない。給料が低い。これらは会社の問題です。転職で解決する可能性が高い。じゃあ仕事内容そのものが嫌いだったらどうか。この職種の働き方が体質に合わない場合はどうか。これは職種の問題。同じ職種で会社だけ変えても次でも同じ理由で辞めたくなります。
エージェントの面談でここを切り分けずに転職した人が1〜2年後にまた同じ顔で面談に戻ってくる。
これ、本当によく見た光景なんです。同じテーマを人事職向けに書いた記事でも触れました。切り分けができていれば次の一手が「転職」なのか「異動願い」なのか「職種チェンジ」なのかまで変わってきます。
軸2:それは「時間が解決する不満」か「構造的な不満」か
不満の賞味期限を見分ける
上司は異動します。繁忙期はいつか終わる。でも会社の文化は変わらない。採用側の人事として社内を見ていて思うのは、個人への不満は数年で入れ替わるが、仕組みへの不満は10年選手も同じことを言っているということです。あなたの不満が「人」に向いているなら待つ選択肢がありますが、「仕組み」に向いているなら待ってもたぶん変わりません。
見分けるための質問はこれ。「その不満、5年前からいる先輩も同じことを言っていないか?」。
言っているなら、それは構造です。
この切り分けを紙の上でやるための転職判断シートを用意しました。会社の問題か、職種の問題か、いまの自分の状態かを分けて書き出せます。
軸3:市場を見てから決めているか
迷っている段階の人に一番効く行動は考え込むことじゃありません。求人票を読むことです。
応募はしなくていい。読むだけ。
転職市場は今も求職者側に有利な状態が続いています。転職求人倍率は2.44倍(doda・2026年5月)。構造的にも2040年に約1,100万人の労働供給不足が予測されている国です(リクルートワークス研究所「未来予測2040」2023年9月)。「辞めたら行き場がないかも」という恐怖はデータ上はかなり割り引いていい。
求人は求職者より多い状態が続いている
それでも恐怖が消えないのはデータの問題じゃない。「自分の市場価値を測ったことがない」からだと思います。求人票を20枚読むと「自分の経験で応募できる求人が世の中にどれくらいあるか」の肌感覚ができて、それだけで迷いの質が変わるんです。「辞められないから残る」と「辞められるけど残る」は、同じ「残る」でも精神状態がまったく違いますよね。
市場価値の測り方は求人票を読む以外にもあって、経歴と設問への回答から想定年収と可能性を診断してくれる無料サービスもあります。転職する気が固まっていなくても、「測るだけ」の使い方ができます。
3つの軸を通しても決まらないとき
3つの軸を通しても結論が出ないことは普通にあります。そのときは決めなくていいです。
「決めない」を「何もしない」にしないこと。それだけ守ってください。
迷ったまま止まっている状態と迷いながら材料を集めている状態は、半年後に大きな差になります。職務経歴書を自分用に書いてみる(書き方より先に読まれ方を知ると楽です)。求人票を読む習慣をつける。信頼できる相手に話してみる(誰に相談するかは選ぶ必要があります)。どれも退路を断たない準備です。残る場合にも無駄になりません。
エージェント時代も人事になってからも感じることですが、転職の後悔には2種類あります。「転職して後悔した」と「あのとき動かなくて後悔した」。前者はよく語られる。後者は本人の中にしか残らないので世の中に出てきません。どちらの後悔を取りに行くかまで含めてあなたの判断です。
焦らず、でも止まらず。
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