「30代 人事 キャリアパス」で検索してこの記事に来た方に、先に正直なことを言うと、HRBP・採用責任者・労務のどれが正解かは、この記事を読んでもわかりません。その代わり、3つの道が実際どう違うのかと、選ぶ前に自分に聞いたほうがいい問いを書きます。私は転職エージェントで働いていた時期があり、自分自身も転職していて、いまは採用する側の人事です。求職者のキャリア相談に乗る側・悩む側・選ぶ側を一周した目線で書くので、多少は使える材料になると思います。

なぜ30代で急に迷い始めるのか

「何でもやれる」が「何者でもない」に見え始める(写真はイメージ)
「何でもやれる」が「何者でもない」に見え始める(写真はイメージ)

20代の人事は、だいたい何でもやります。採用も労務も研修も、来た球を打つ。それでよかった。

30代で迷い始めるのは、「何でもやれる」が「何者でもない」に見え始めるからだと思います。転職市場で職務経歴書を書こうとした瞬間に、この不安は具体化します。「人事を8年やりました」だけでは、何のプロなのか伝わらない。エージェント時代、この壁にぶつかっている30代の人事の方を何人も見ました。そして自分が転職を考えたときも、同じ壁の前に立ちました。

ただ、市場環境だけ見れば、悲観する状況ではないです。転職求人倍率は2.44倍(doda・2026年5月)で、求人が求職者を大きく上回る状態が続いています。長期で見ると、2030年に約341万人、2040年には約1,100万人の労働供給不足が予測されています(リクルートワークス研究所「未来予測2040」2023年9月)。人が採れない時代が構造的に続くなら、「人をどうにかする仕事」の価値は下がりにくい。焦って決める必要はない、というのが前提です。

3つの道は「何と向き合うか」が違う

3つの道は「何と向き合うか」が違う 1 HRBP 組織と向き合う。事業部と経営の板挟みも仕事のうち 2 採用責任者 市場と向き合う。成果が数字で見え、詰められもする 3 労務 リスクと向き合う。法改正のたびに専門性が積み上がる

HRBP・採用責任者・労務スペシャリスト。求人票の上では並列に見えますが、日々向き合う相手がまったく違います。

HRBPは、事業と向き合う仕事です。事業部門のパートナーとして、組織課題を人事の手段で解く。面白さは経営に近いこと。しんどさは、人事部と事業部の板挟みになりやすいことと、成果が数字で見えにくいこと。「人事の専門性」より先に「事業の理解」を求められる場面が多い印象です。

採用責任者は、市場と向き合う仕事。採用は外部の労働市場との勝負なので、3つの中で一番「市場の変化」に晒されます。成果が採用数や充足率で見える分、わかりやすく評価もされ、わかりやすく詰められもします。母集団が枯れていく時代に、採れる責任者の市場価値は上がり続けていると感じます。

労務は、リスクと向き合う仕事。地味に見られがちですが、専門性の蓄積がそのまま代替されにくさになる道です。なにしろ法改正が止まりません。直近でも、障害者法定雇用率が2026年7月に2.5%から2.7%へ引き上げられ、対象企業は常時雇用37.5人以上に拡大。2026年4月には60歳以上の労働者への労災防止措置が事業者の努力義務になりました。この手の変化があるたびに、労務の専門家の仕事は増えます。

選ぶ前に自分に聞きたいこと

選ぶ前に自分に聞きたい3つの問い 1 どの「向き合う相手」が面白いか 組織か、市場か、リスクか 2 どの「しんどさ」なら耐えられるか 板挟み・詰められる・地味 3 5年後どちらの安心が欲しいか 社内で偉くなるか、市場で強くなるか

で、どれを選ぶか。職種名から選ぶのは、たぶん順番が逆です。

まず、過去の仕事で時間を忘れていたのはどの瞬間だったか。事業部長と組織の話をしていた時か、候補者を口説いていた時か、規程を整えて仕組みが回り始めた時か。30代なら、もうサンプルは手元にあるはずです。

次に、「板挟み」「詰められる」「地味」のうち、どれなら耐えられるか。3つの道のしんどさは種類が違います。向いている道って、面白さが合う道であると同時に、しんどさの種類が耐えられる道でもあると思うんですよね。ここを見ずに面白さだけで選ぶと、だいたい後で効いてきます。

もうひとつ。5年後、社内で偉くなりたいのか、市場で強くなりたいのか。HRBPは社内文脈への依存度が比較的高く、労務は資格や法知識で市場に持ち出しやすい。採用はその中間で、実績の数字が持ち運べます。どちらが正解ではなく、自分がどちらの安心を欲しがっているかの問題です。

頭の中だけで考えると煮詰まる

市場に出てみないと、自己認識とのズレはわからない(写真はイメージ)
市場に出てみないと、自己認識とのズレはわからない(写真はイメージ)

この手の悩みは、頭の中だけで考えていると煮詰まります。自分の場合に効いたのは、市場に直接聞いてしまうことでした。転職する気がなくても、職務経歴書を書いてスカウトサービスに登録しておくと、「市場は自分の経歴のどこに反応するのか」が実データで返ってきます。HRBP系の打診が来るのか、労務案件ばかりなのか。自分の認識と市場の評価のズレは、登録してみないとわかりません。

転職を決めてから登録するのではなく、迷っている段階で市場の声を材料にする。順番としてはこちらのほうが健全だと思います。

あなたが今の道を「選んでいる」のは、選んだからなのか、他を見ていないからなのか。私自身、この問いに即答できなかった時期があります。30代の強みは、まだ選び直せることと、選び直さないと決める材料がもう揃っていること。その両方です。急がなくていいので、まず市場に経歴を晒すところからでどうでしょうか。


出典: doda転職求人倍率(2026年5月)/リクルートワークス研究所「未来予測2040」(2023年9月)/障害者法定雇用率・高年齢労働者の労災防止措置に関する法改正(2026年)