復帰初日。席に戻って、渡された仕事を見て、ん、と思う。
前より軽い。担当していた案件は別の人が持っている。会議の招集も減っている。誰も冷たくないし、むしろみんな親切。それなのに、じわじわ不安になる。
先に書いておきます。あれは配慮の結果であって、あなたの評価が下がったわけではありません。
ただし、ここで何もしないと配慮がそのまま既定路線になります。人事として復帰の受け入れを組む側にいました。仕事が減ったまま3年経ってしまう人と、半年で元に戻す人の差は、復帰した直後の1ヶ月に何を伝えたかで決まっていました。
復帰後に仕事が減る、その決まり方
誰がどうやって決めているのかを書きます。
内側の話です。
復帰の1〜2ヶ月前に、上司と人事で受け入れの相談をします。そこで見ているのは主にこの3つです。
- 勤務時間(時短か、フルタイムか)
- 急な休みが発生する可能性
- 本人が復帰前面談で言っていたこと
このうち上の2つは制度と事実なので、必ず考慮に入ります。時短で夕方に会議ができないなら、夕方に山場が来る案件は外れる。急な早退が起こりうるなら、その日に止まると困る役割は避ける。顧客の窓口をひとりで持っている案件や、締切が動かせない業務、遠方への出張が定期的に発生する担当は、この時点でだいたい外れます。ここまでは、時間の制約から機械的に導かれる合理的な判断です。
ここに文句のつけようはありません。
問題は3つ目です。本人が何も言っていない場合、上司は安全側に倒します。
負荷をかけて潰れるより、軽くして様子を見るほうが安全だからです。しかも軽くした結果が本人の不満につながるとは、正直あまり想定されていない。悪気はまったく無いんです。だからこそ、放っておくと止まらない。
私がこの相談を受けるとき、上司の側に悪意があった例はほとんどありませんでした。むしろ「気を遣ったつもりだったんだけど」と本気で驚かれることのほうが多かったと思います。本人は不満を溜めていて、上司は良かれと思っていて、その間で何のやりとりも起きていない。この状態が半年続くと、本人のほうが先に転職を考え始めます。もったいないと感じる場面でした。
言わないと、軽いままです。
そこだけです。
配慮とキャリアが、すれ違う地点
このすれ違いは、双方が善意でやっているから厄介です。
会社側は「負担をかけないこと」を配慮だと思っています。本人は「戻れないこと」を不安に感じています。同じ状態を、片方は思いやりとして、もう片方は排除として受け取る。どちらも嘘をついていません。
同じ配慮が、真逆に受け取られる
右の列でいちばんきついのは、たぶん一番下です。
期限がない。
期限が示されない。 「落ち着いたら戻そう」の落ち着いたがいつなのか、誰も決めていない。決めていないので、忙しさの中で誰も思い出さない。1年経ってから「そういえば」となる。
だから、やることは1つに絞れます。
期限を先に決める。
これだけです。
復帰前面談で先に握る4項目
復帰前に面談の機会があるはずです。無ければ、こちらから15分もらってください。ここで握るのは4つ。
復帰前面談で決めておく4項目
②が本題です。
ここだけ。
多くの人が①と③だけを伝えて終わります。制度の話だから伝えやすいんですよね。でも①③だけを聞いた上司は、制約の情報しか持っていない状態で仕事を決めます。当然、軽くなる。
だから②を必ず足してください。言い方はこれで十分です。「時間の制約はありますが、◯◯規模の案件は続けて持ちたいと思っています」。希望を出したという事実が、受け入れの設計に入ります。
そして④。これが一番効きます。半年後の見直しを、その場で日付として決めてしまう。 決めておかないと誰も切り出せないまま数年が過ぎます。ここだけは絶対に取ってください。
日付を入れておくと、半年後に切り出すのが本人の勇気ではなく予定の消化になるので、心理的な負担がまるで違います。上司の側も、いずれ見直す前提で仕事を組めるようになる。「当面」という言葉が持っている、誰も期限を決めないまま時間だけが進んでいく性質を、日付ひとつで潰せるんです。
15分で決まります。
同僚への伝え方
これは短く。
謝らないでください。
本当に、これだけでいいです。 「ご迷惑をおかけします」から入る人が多いのですが、この入り方をすると、その後の急な早退が毎回「迷惑」という枠で処理されることになります。自分でその枠を作ってしまうのはもったいない。
代わりに、運用を共有する形にします。
「基本は17時までです。急な早退があるときは、◯◯さんに引き継いで、チャットに状況を残します」
これだけ。謝罪ではなく段取りの共有です。周りが知りたいのも気持ちではなく段取りのほうなので、伝わり方も実際いいです。
私は受け入れ側でも何度かこの場面を見ていますが、うまく回っているチームは例外なく引き継ぎ先が事前に決まっていました。決まっていないと、早退の連絡を受けた側がその場で誰に振るか考えることになって、そこで初めて空気が悪くなる。人ではなく段取りの問題です。
評価に納得できないとき
時短勤務の評価について、実務の話を書きます。
時短だから評価が下がる、という制度を持っている会社はまずありません。 短時間勤務を理由とした不利益な取り扱いは育児・介護休業法で禁止されています(厚生労働省・2026年8月確認)。制度の建て付けとしては、そうなっています。
ですが実際には差が出ることがあります。理由は評価ではなく、担当した仕事のほうにあります。 目標管理で評価する会社では、期初に決めた目標の中身で点の上限が決まる。軽い目標しか設定されていなければ、どれだけ完璧にこなしても評価は真ん中に着地します。
効くのは評価面談ではなく、目標設定のほうです。
順番が逆になっている人が多い。期末に評価を見てから不満を言う形だと、その期についてはもう何も動かせず、翌期の目標設定は忙しさに紛れてまた上司の裁量で決まってしまい、同じことが繰り返されます。復帰後に評価が伸びない状態が2年3年と続くケースは、たいていこの循環に入っています。手を入れるなら期の頭です。
だから納得がいかないときに言うべきなのは「時短だから低いのではないですか」ではありません。「来期の目標を、この水準にしたいです」です。前者は制度の議論になって終わりますが、後者は次の1年を動かします。
評価の仕組みそのものは、こちらに詳しく書きました。→ 評価は面談で決まらない。決まっているものを聞きに行く場です
配慮のまま固定されたのか、一時的なものかを見るときは、会社の事情と自分の状態を分けて書くと判断しやすくなります。転職判断シートがその形になっています。
半年後に、もう一度話す
最後に、④で決めた日付の話です。
半年経つと、状況はかなり変わっています。子どもが保育園に慣れて、急な呼び出しが減っている場合もあれば、逆にまだ落ち着かない場合もある。どちらであっても、一度話す価値があります。
そして復帰時の取り決めは、見直す前提で置いてください。復帰直後に決めた制約を守り続けることが誠実さだと感じてしまう人がいるのですが、それは会社側も望んでいません。事情が変わったら条件も変える。それが普通の運用です。
半年後。カレンダーに入れておいてください。
もう少し踏み込むと、この見直しの場は「戻す」ためだけのものではありません。半年やってみて、思っていたより時間が取れないことが分かったなら、逆に軽くする方向で組み直したっていい。復帰後のキャリアの話が苦しくなるのは、元の働き方に戻ることだけが正解として置かれている場合です。戻すか、そのままか、別の形にするか。私は、選べる状態を維持しておくために日付を取る、という話だと思っています。
いまの会社では戻れる見通しが立たない、と感じている人へ。転職はいつでもできますが、まず不満の出どころを切り分けたほうが早いです。→ 転職すべきか。その不満は会社のせいか、職種のせいか