「この求人、大丈夫だろうか」と思いながら、同じ求人票を何度も読み返しているところだと思います。

先に、いちばん役に立たない話からします。求人票1枚を睨んでも、その会社がブラックかどうかは分かりません。私は求人票を書く側にいますが、書く側から見ても分からない。1枚の中に「悪い会社の証拠」はほとんど落ちていないからです。

分かるのは別のことです。同じ職種の求人を20件並べたときに、その1枚がどこから外れているか。これは分かります。

固定残業代を置く求人の割合も、必須要件の書き方も、募集背景を書くかどうかも、職種ごとに相場があるからです。相場が分かれば、外れ値は見えます。

この記事では、その相場を実際に数えた結果を出します。ハローワークインターネットサービスから8職種×20件=160件、それとは別に一般事務の求人15件を集めて、欄ごとに数えました(当サイト収集、2026年8月13日取得)。

会社名は出しません。特定の会社をブラックだと名指しする記事にはしないためです。

160
数えた求人票(8職種×20件)
ハローワークインターネットサービス/当サイト収集 2026-08-13
55%
固定残業代の記載率がいちばん高い職種(施工管理)
20件中11件
0%
いちばん低い職種(機械設計)
20件中0件

固定残業代は、職種によって「普通」がまるで違う

まず、いちばんはっきり差が出た欄から。

固定残業代(みなし残業代)が書いてある求人の割合を職種別に数えたところ、こうなりました。

固定残業代の記載率(各職種20件中)

施工管理 55% 法人営業 45% インフラエンジニア 35% 人事 20% 営業事務 20% 経理 15% 社内SE 10% 機械設計 0%
出典: ハローワークインターネットサービス/当サイト収集 2026-08-13・各職種20件

施工管理では20件中11件に固定残業代の記載があり、機械設計では20件中0件でした。同じ「正社員の求人」なのに、片方では過半数が置いていて、片方では誰も置いていない。

ここから読めることは、たぶん多くの人が期待するものとは逆です。

固定残業代が書いてあること自体は、その会社が悪い証拠になりません。現場に出て工程が動く仕事は、残業時間が読めない。読めない時間をあらかじめ賃金に組み込むのは、業態から出てくる設計です。

施工管理の求人票は、そもそも待遇の説明文の比重が高くて、「制度」「資格取得支援」「賞与」といった語が上位に並びます(20件中17件に「制度」が出現)。人手が足りない業態の書き方です。

意味を持つのは、その職種の相場から外れている場合です。機械設計で20件全部が置いていない中に固定残業代つきの1件が混ざっていたら、それは業態の事情ではなく、その会社の選択です。そこは聞く価値がある。

逆に施工管理で固定残業代がない求人を見つけたら、残業代が別途出るのか、そもそも残業が少ないのか、どちらなのかを確かめる価値があります。

つまり見る順番は、この求人が良いか悪いかではなく、この職種の普通はどこかを先に作る、です。同じ職種の求人を10〜20件開いて、固定残業代の欄だけ拾っていく。30分もかかりません。

拾う欄を全部並べたものが求人票チェックリストです。上から順に埋めながら10件見ると、その職種の相場が手元にできます。

必須要件は、すでに選別の機能を失っている

次に「応募資格」の欄です。ここは意外な結果でした。

一般事務の求人15件を見たところ、実務経験を必須にしていたのは1件だけでした(当サイト収集、2026-08-13、n=15)。残りは「PCの文字入力ができればOK」「明るい挨拶ができればOK」といった水準です。

かわりに歓迎欄が膨らんでいて、派遣求人では歓迎条件をタグで14個並べているものもありました。

必須要件が選別に使われていない。この意味は2つあります。

ひとつ。必須要件を満たしているからといって、通過の見込みが上がったわけではありません。誰でも満たせる条件で募集をかけているので、実際の選別は書類の別の場所で行われています。

応募する側から見ると、要件を読んでも自分が有利かどうかの手がかりにならない。

もうひとつ。要件が空洞化している求人は、社内で「どんな人が活躍するか」の言語化ができていない可能性があります

求める人物像の欄が、スキルではなく働き方の希望(「プライベートも大切にしたい方」「コツコツ黙々作業が得意」)で書かれているのも、同じところから来ています。選別ではなく共感を取りにいっている文章です。

ここは職種で書き方が反転します。施工管理では、資格名がずらりと並びます。20件中18件が何らかの施工管理技士に触れている。

ところがそのうち必須は3件だけで、残りは「あれば尚可」でした。資格名が並んでいるのを見て「自分には無理だ」と閉じるのは、かなりもったいない。

応募資格の欄は、職種で逆方向に壊れている

一般事務型(要件が空洞化) 実務経験を必須にしたのは15件中1件 歓迎欄にタグが14個並ぶこともあ 人物像は「働き方の希望」で書かれる 施工管理型(要件が過剰に見える) 20件中18件が資格名を記載 ただし必須は3件のみ、残りは「あれば尚可」 必須の直後にカッコで例外が作られる

施工管理で目立ったのは、必須要件の直後にカッコで例外を作る書き方でした。「土木工事の施工管理技士経験者(但し、土木系学部卒業者は経験不問)」「現場アシスタント経験(アルバイト可)」といった具合です。

カッコの中まで読まないと、応募できるかどうかを判断し損ねます

募集背景を書いてある求人は、ほとんどない

ここが、今回いちばん考えさせられた結果です。

一般事務15件のうち、なぜこのポジションを募集しているのかを書いていた求人は1件だけでした。その1件は「長期間勤務していた職員の退職に伴う欠員補充」と正直に書いています。

そして、その同じ1件だけが、定着率95%、有給休暇の取得率100%、復職率100%という数字を出していました。募集背景を隠さない求人票が、同時に定量指標も出している。

これは偶然かもしれません。n=15の中の1件なので、統計的な話は一切できません。

それでも読み方としては使えます。情報を出す姿勢は、欄をまたいで一貫する

ひとつの欄で「書かなくてもいいことを書いている」求人票は、他の欄でも書いている確率が高い。逆に、どの欄も当たり障りのない求人票は、どの欄も当たり障りのないままです。

だから面接で聞く質問がひとつ決まります。「このポジションは、増員ですか、欠員補充ですか」。求人票に書いていないなら、聞けばいい。答えが返ってくるか、詰まるかで、また情報が増えます。

求人の件数は、企業の数ではない

これは求人票の中身ではなく、検索結果の見え方の話です。

施工管理の20件を調べたとき、そのうち11件(55%)が同一企業の拠点違いの複製でした。住宅メーカー系が5件、設備会社系が5件、賃金も要件もまったく同一で、勤務地だけが違う。

機械設計でも複製が11件(55%)、法人営業で9件(45%)、営業事務で5件(25%)。

つまり施工管理の「20件」は、実質10社程度です。

読者にとって何が問題かというと、2つあります。求人が多い職種に見えても、選択肢は表示件数ほど多くないこと。そして、平均年収のような集計をすると、大量出稿している特定企業に引っ張られること。

「この職種の相場は◯◯万円」という数字を見たら、それが企業数で数えたものか件数で数えたものかを疑ってください。

ついでに、複製の中に面白い例がありました。同じ会社の5件が拠点違いで賃金も同一なのに、1件だけ「転居を伴う転勤あり」の枠があって、そこだけ賃金が上がっていた(211,168〜294,985円 → 223,550〜330,650円)。

転勤を受け入れる対価が、求人票の上で金額として見えている珍しい例です。

同じ会社の他の求人と並べたから見えたもので、1枚だけ読んでいたら気づきません。

求人票の文面は、会社をまたいで使い回されている

もうひとつ、並べたから分かったことを。

一般事務15件のうち、東京の会社と大阪の会社、資本関係のない別企業の2社で、待遇欄・選考フロー・「応募は最短1分」という文面が実質同一でした。同じ求人作成テンプレートを使っているとしか読めません。

同一の派遣会社が出した2件では、求める人物像が一字一句同じでした。

これが何を意味するか。求人票の文章から会社の個性を読み取ろうとするのは、かなりの部分が空振りだということです。「アットホームな職場」「風通しが良い」に意味を求めても、書いた人が選んだ言葉ですらない可能性がある。

同じ理由で、「不安の先回り」も定型化しています。集めた中には、こういう表現が並んでいました。

  • 「お金は一切扱いません」
  • 「電話対応は内線のみだから安心」
  • 「社員が最終確認するので1人で業務を完遂させることはありません」
  • 「ゼロからの資料作成ほぼなし」

どれも読んでいて安心する文言です。実際、これは応募者が何を怖がるかを企業側がよく理解している証拠でもある。

ただ、安心させる言葉が入っていることは、その会社が良い会社であることを意味しません。テンプレートに入っているだけかもしれない。

確かめる方法はひとつで、その1文が具体的な業務の説明とつながっているかを見ることです。「電話対応は内線のみ」の求人票に、では誰が外線を取るのかが書いてあるかどうか。

結局、求人票で何が分かって、何が分からないのか

盛れる欄と盛れない欄の区別については、求人票には、盛れる欄とウソが書けない欄があるに書きました。

給与幅や「未経験歓迎」「急募」といった定番表現の内実は求人の読み方に書きました。

この記事はその先の話です。

分かることを整理すると、こうなります。

分かるのは、この求人票がその職種の相場から外れているかどうか。固定残業代の有無、必須要件の水準、募集背景を書くかどうか、そして同じ会社の他の求人と比べて条件が違うかどうか。これは10〜20件並べれば見えます。

分からないのは、実際の残業時間、前任者がなぜ辞めたか、上司がどういう人か、繁忙期に何が起きるか。ここは求人票を何回読んでも出てきません。書いていないのではなく、書かなくていいことになっているからです。

そして口コミも、ここを埋めてはくれません。口コミが埋めるのは「誰かにとってどうだったか」であって、あなたにとってどうかではない。

口コミのどの欄なら確かめられるかは会社の口コミは、確かめられる欄だけ読むに分けて書きました。

いま見ている求人票について、どの欄をどの順で確認するかを並べたものが求人票チェックリストです。全項目のうち10項目は「求人票では確認できないこと」として最後にまとめてあります。

そこが、この記事で言う「分からない」の部分にあたります。

分からない10項目を、誰に聞くか

求人票では確認できない10項目を、応募前の個人が採用担当に電話して聞くのは、現実には難しいところです。聞ける立場ではない、というより、聞いた時点で選考に影響する可能性を捨てきれないからです。

ここは、その企業と日常的にやり取りしている相手に聞くのが早い。求人票を1枚持って「この会社について、書いていない部分を知りたい」と言うのは、相談として成立します。

実際の残業時間、前任者の退職理由、部署の人数構成あたりは、企業担当が付いているエージェントなら答えられることがあります。

ただし、答えが返ってこないこともあります。そのときは「知らない」のか「言えない」のかを聞いてください。

仕組み上、エージェントの報酬はあなたが入社したときに企業から出るので、応募を止める方向の情報は積極的には出てきません(転職エージェントはなぜ無料なのか)。

それを分かったうえで聞く分には、使う価値のある相手です。

持ち帰ってほしいこと

  • 求人票1枚では、ブラックかどうかは分かりません。分かるのは、同職種の相場から外れているかどうかです。
  • 固定残業代の記載率は職種で0%(機械設計)から55%(施工管理)まで開きます。書いてあること自体は悪い証拠になりません。外れているかどうかを見てください。
  • 一般事務15件のうち、実務経験を必須にしたのは1件だけでした。必須要件は選別の機能を失っていて、応募の見込みを測る材料になりません。
  • 逆に施工管理では、20件中18件が資格名を書きながら必須は3件だけでした。資格名の羅列を見て諦める必要はありません。
  • 募集背景を書いた求人は15件中1件で、その1件だけが定着率・有給取得率まで出していました。情報を出す姿勢は欄をまたいで一貫します。
  • 施工管理の求人20件のうち11件が同一企業の拠点違いでした。求人件数は企業数ではありません。
  • 求人票の文面は、無関係な会社の間でもテンプレートとして使い回されています。文章から会社の個性は読み取れません。

求人票で拾いきれなかった実態は、そこで働いた人の口コミが埋めてくれます。残業時間や退職理由の欄を、応募前に固有名詞で確認してください。

次に応募先を絞る段階に入ったら、「良い会社」の基準を年収と知名度以外でどう置くかが問題になります。そこは良い会社の見極め方に書きました。

求人票で確かめきれなかったことを面接の場でどう確認するかは面接で会社を見るです。


この記事の求人票データは、ハローワークインターネットサービス(8職種×20件)および求人検索APIから取得した一般事務15件を、当サイトが2026年8月13日に収集・集計したものです。

母数が小さく、収集時点の新着求人に偏っています。全国の求人全体を代表する数値ではありません。