夜、受けている会社の名前と一緒に評判を探す。そこで「この会社はやめたほうがいい」という一文を見つける。
読み終えて手を止めても、その一行が残る。寝る。
翌朝、通勤の途中でまた同じ一行を思い出す。会ったこともない誰かが書いた文章なのに、面接で会った人の印象より強く残ってしまう。読み方の問題というより、不安なときに人が拾う情報の癖なのだと思います。
私は求人票を作る側の人事と、候補者に会社を紹介するエージェントの両方をやってきました。だから言えるんですが、口コミは書こうと思った人だけが書いています。
読むのはやめなくていい。
ただ、見つけたものをそのまま会社の姿だと受け取ると、けっこう外れます。
誰が書いたものかで、見えている景色が違う
まず前提から。
同じ会社について「働きやすかった」と書いている人がいる。すぐ下に「二度と働きたくない」と書いた人もいる。
どっちが本当なんだ、となりますよね。
両方本当です。どちらかが嘘をついているわけではありません。
考えたいのはここです。その2人が同じ会社にいたとしても同じ状況にいたとは限りません。
書く動機が強くなるのは、辞めるときか辞めた後です。在職中の人は自由に書きにくい。だから口コミに並んでいるのは、その会社で働く人全体の意見ではなく、書く理由があるほど何かを感じた人の言葉が集まったものだと思って読んだほうが実際に近いです。
母集団が偏ります。
ここが出発点です。
同じ会社の中でも立場が違えば見えるものは変わります。事業を進める部門と人事では日々見ているものが違いますし、部署が変われば進め方も変わりますし、上司が変われば同じ部署でも働き方はかなり変わります。ここは私も両方の側から見てきたので、けっこう自信を持って言えます。
書いた人がどの部署にいたのか。どんな立場だったのか。分からなければ、自分の入社後に当てはまるかは判断できません。
時期も見ます。ここ、忘れがちです。
古い投稿なら、そのときの制度や体制の話です。組織が変わっていれば当時の話をいまに当てはめることはできません。
悪い口コミが1件で応募をやめる必要はない。良い口コミが1件で安心する必要もない。
見るのは繰り返しです。
同じ話が何度も出るかどうか。
読む価値があるのは、確かめられることが書いてある欄
分け方の話です。
口コミをいくつも読んで、残業が多い、上司が厳しい、評価されにくいと拾っていく。読み終えると、結局その会社のことがよく分からない。
よくあります。
良いことも悪いこともひととおり書かれていて、読み終えても会社の姿が決まらない。書いた人の顔が見えないぶん、読む側は自分の不安に近い一文のほうを拾ってしまいます。
書かれている内容は2つに分かれます。後から自分で確かめられるものと、書いた人の受け取り方です。この2つを分けずに読むから、読むほど不安になって何も決まらないという状態になります。
口コミの読み分け
給与や残業、休日は求人票でも書き方が決まっていて自由に良く見せられない欄です。だから口コミと並べると食い違いが見つかります。求人票では休日をこう書いているのに口コミでは実際の休み方が違う。そこが面接で聞く材料になります(盛れる欄と盛れない欄の話は求人の読み方の記事に書きました)。
反対に、上司がいい人だった、社風が悪い、という話は当てはめないほうがいい。同じ上司でも進め方や相性で受け取り方は変わりますし、書いた人がその上司の下でどんな仕事をしていたのかまでは分からないので、自分に同じことが起きるとは限りません。
同じ話が何件も出ていて、書かれた時期も近い。そのときは個人の感じ方ではなく会社の仕組みに関係している可能性があります。
1件ずつではなく、数を見る。
それだけで印象がだいぶ変わります。
あと、口コミがほとんど見つからない会社もあります。少ないことは良いとも悪いとも言えません。
量で決めない。
応募が集まらない会社もあれば、そもそも社員数が少ない会社もあります。書き込みがゼロだからといって、隠しているわけでも問題があるわけでもない。母数の話です。
気になった書き込みは、質問に変えて持っていく
ここが実務です。
面接で、あの書き込みのことを確かめたい。でも「口コミを見て応募してきた人」と思われそうで結局聞けない。
分かります。ただ、聞かずに帰ると確かめたかったことだけが残ります。
そのまま持ち出す必要はないんです。気になった内容を、面接の相手が事実として答えられる形に置き換えて聞けば、口コミを読んできたことを言わずに知りたいところだけ確認できます。
残業が気になったなら、口コミの話をせずに求人票の時間と実際の運用を聞く。休みも同じです。書かれている休日と実際の取り方を聞けば足ります。
「急募」の理由も前の担当者がなぜ抜けたのかも、聞いて失礼にはあたりません。むしろ、これから任される仕事の背景を知るための質問なので、答える側も用意していることが多いです。
口コミを質問に変える
私は面接する側にいましたが、確認の質問が来たこと自体で評価を下げたことはありません。ただ会社を責める形で聞かれると答える側は身構えます。証明させようとせず、知りたい事実だけ聞く。そのほうが進みます。
順番だけの話です。
エージェントが間に入っているなら、直接は聞きにくいことを確認してもらう手もあります。面接で言い出せなかった内容でも間に立ってもらえますし、聞かれた側も候補者本人から直接言われるより答えやすいという事情があります。内定後のオファー面談も機会のひとつです。承諾する前に選考中の説明と実際の条件がずれていないかをまとめて確認できます(聞くことはこの記事に並べました)。
口コミで気になった点は、求人票側の記載と突き合わせると早く片が付きます。突き合わせる欄は求人票チェックリストにあります。
口コミを見て応募をやめる前に
最後に。
応募すると決めていた会社の書き込みを読んで手が止まる。やっぱりやめたほうがいいかもしれない。そう考えて、その日は何もしないまま終わる。
翌日も同じところを読んでいる。
止まりません。
口コミで候補を削っていくと、比べる会社そのものが減ります。減れば決めやすくなるかというと逆です。材料がなくなって、かえって決まらない。
見るのは、その会社が良いか悪いかではありません。
自分がそこで経験を使えそうか。仕事で大事にしていることと、その会社の働き方が合っていそうか(この考え方は良い企業の見極め方にまとめました)。
口コミは、求人票の盛れない欄、面接で聞いた話、エージェントから聞いた話と並べて使う材料のひとつです。
それ以上でも以下でもない。
引っかかりは消さなくていい。
持っていけばいい。
そのまま面接に持っていって、確かめられる形に直して聞く。答えが返ってきたら材料が1つ増えます。返ってこなければ、それも材料。
それでも、入社しないと分からないことは最後まで残ります。
そこは減りません。
完全に見極めてから応募したい気持ちは分かります。ただ、選考は情報を集めながら進むものなので、分からない部分を抱えたまま次に進むのがふつうです。分かる部分だけ確実に潰しておけば、残った不安の大きさは自分で説明できるようになります。
応募前に社員の生の声を確かめるなら、在籍者・退職者の口コミを読めるサイトで固有名詞ごと検索するのが早いです。
次の工程 → 良い企業の見極め方(全体) / 面接で会社を見る / 「思っていたのと違う」が起きる会社