求人票って、誰がどう書いているか考えたことありますか。私は書いている側です。現役の人事で、その前は転職エージェントとして企業の求人票を候補者に「紹介する側」にいて、自分が転職したときは「読む側」にも回りました。
作り方を知ると、読み方が変わります。この記事は、作っている側の手の内を開く話です。
先にひとつ、裏側の数字を。求人票の作成に生成AIを使っている人事はまだ14.4%です(『人事白書2025』日本の人事部、n=6,139社、2025年3月調査)。つまりあなたが読んでいる求人票の8割以上は、人事がゼロから手で書いたか——ここが重要なんですが——昔の求人票を使い回したものです。読みにくい求人票の多くは、後者です。
求人票が生まれる現場は、だいたいこう

典型的な流れを書きます。まず経営者や現場責任者から人事に注文が来ます。「ガッツのあるやつが欲しい」みたいな、ふわっとした言葉で。
ここからが人事の腕の見せどころで、ちゃんとした人事はこれを分解します。どの業務でガッツが要るのか。飛び込みの新規開拓なのか、長い商談を粘るのか。過去に「ガッツがある」と評価された社員は具体的に何をしていたか。この分解を経てから文章にする。
分解をサボるとどうなるか。「熱意のある方」「成長意欲の高い方」という抽象語がそのまま求人票に載ります。
だから読み方の第一のポイントはこれです。抽象語の密度は、その会社の要件分解の練度をそのまま映す。「求める人物像」が精神論だけの求人票は、社内でも「どんな人が活躍するか」が言語化できていない可能性が高い。入社後に評価基準が曖昧である確率も、経験上、高いです。
どこが盛られて、どこにウソが書けないか
求人票には、書き手の裁量が大きい場所と、ほぼ書けない場所があります。ここの区別がつくと、読む効率が全然違います。
裁量が大きいのは、仕事内容の描写と「やりがい」まわり。ここは広告です。私も書くとき、いちばん魅力的に見える角度を選んでいます。ウソではないけれど、照明は当てている。
逆に、給与レンジ・勤務時間・休日数・手当などの労働条件は、法的な意味を持つ表示です。私はここだけはAIにも触らせず、一次情報から書きます。盛れない場所だからこそ、情報が詰まっています。
個別のポイントをいくつか。
給与レンジは幅と下限を見る。「400〜900万円」のような広いレンジは、実際の着地がどこかを示していません。下限が現実的なオファーラインだと思って読むほうが、期待値の事故が減ります。上限は「理論上あり得る」の意味であることが多い。
固有名詞の有無。「様々な業界のお客様」としか書けないのは、書けない事情があるか、人事が現場を取材していないかのどちらかです。顧客層や案件の規模感が書いてある求人票は、人事と現場の距離が近い。これは入社後の働きやすさとわりと相関します。
**大変な点が書いてあるか。**私は自分が書くとき、正直に伝えたい大変な点を必ず1つ入れると決めています。いい面だけの求人票は、入社後のギャップになって返ってくるからです。エージェント時代、入口で盛った求人が早期離職につながるのを内側から見ました。逆に言うと、大変な点を書いてある求人票は、採用側が「短期の応募数より定着」を選んだ跡です。
エージェントが「紹介しづらい」と感じる求人票
エージェント側にいた頃の話をもう少し。候補者に紹介しづらい求人票には共通点がありました。誰宛てに書いているのかわからない。つまり「会社が言いたいこと」から書き始めていて、「候補者が知りたいこと」に答えていない。仕事内容より先に会社の沿革と理念が長々と続く求人票は、だいたいこれです。
このねじれは、読む側のあなたにとってはシグナルとして使えます。候補者が知りたいこと(何をやるのか・いくらか・誰と働くのか)に最短で答えている求人票は、候補者目線で採用を設計できている会社。逆は、そういうことです。求人票は会社があなたに最初に見せる「仕事の成果物」なので、その品質は正直に出ます。
あと、これは書いていて自分に刺さる話ですが、使い回しの求人票は日付感覚でわかることがあります。事業内容の記述が古い、すでに終わった制度が載っている、など。面接で「求人票に◯◯とありましたが、いまもそうですか」と聞いてみると、更新されていない求人票の会社は答えに詰まります。これ、逆質問としてかなり優秀です。求人票への向き合い方は、入社する社員への向き合い方の縮図なので。
求人票は「会社の答案用紙」として読む
まとめっぽいことを言うと嘘くさくなるので、視点だけ置いておきます。
求人票は、会社があなたを審査するための文書に見えて、実はあなたが会社を審査できる最初の答案用紙です。要件を分解できているか。盛れない場所に何が書いてあるか。候補者の知りたいことから書かれているか。作っている側は、これらを全部わかった上で書いています。少なくとも、わかっている会社とわかっていない会社がある。その差は、読めば見えます。
私はこれからも書く側に立ち続けますが、書く側の手の内は、このブログで開けるだけ開けていくつもりです。
出典: 『人事白書2025』(日本の人事部、2025年3月調査・n=6,139社)