特定の一人と、合わない。

仕事そのものは嫌いではない。給料にも大きな不満はない。ただその人が同じ会議にいる日は、朝から気が重い。そして周りに言っても「気にしすぎだよ」で終わる。

人間関係を理由に辞める人は多いです。ただ、「我慢する」か「辞める」の二択で考えている人が、その手前をほとんど試していないのもよく見てきました。

人事として、この種の相談を受ける側にいました。相談してくる人の中で、その後の状況が改善した人とそうでない人には、けっこうはっきりした差があります。やっていた順番が違うんです。

「合わない」は、我慢では解決しない

最初に、期待を1つ折っておきます。

相性の問題は、時間が経っても勝手には良くなりません。むしろ悪化するほうが普通です。理由は単純で、合わない相手との関わりは毎回わずかに消耗を残していき、その蓄積が次の関わりの前提になるからです。

そして努力の方向を間違えやすい。自分の受け止め方を変えようとする方向です。気にしないようにしよう、相手にも事情があるはずだ、自分が大人になろう。これで解決した例を、私はあまり見ていません。感情は制御できないので、我慢の総量が増えるだけになります。

変えられるのは、自分の気持ちではないほうです。

環境のほうです。

先に減らすのは、気持ちではなく接触回数

やることは単純です。顔を合わせる回数と経路を減らす。

実際に動かせる場所は3つあります。

  • :フリーアドレスなら明日から変えられます。固定席でも、レイアウト変更のタイミングで希望は出せる
  • 会議:出席が慣例になっているだけの会議はけっこうあります。議事録の共有で足りるなら抜ける
  • 連絡経路:口頭やその場での声かけを、チャットやメールに寄せる

3つ目には副次的な効果があります。やりとりが記録として残るという点です。これが後で効いてきます。

全部を一度に変えようとしないでください。1つでいい。週に3回顔を合わせていたのが2回になるだけで、体感はけっこう変わります。

ゼロにはなりません。減らすだけです。

それでも違います。

記録を残す。ただし目的は告発ではない

ここから先は、相談を視野に入れる段階の話です。

記録と聞くと身構えると思いますが、証拠集めのつもりでやらないでください。告発のための記録は続きませんし、書いているうちに気持ちが荒れます。目的は別のところにあります。

自分の中の「なんとなくつらい」を事実に変換すること。

それだけです。

人事に相談が来るとき、多くの場合は「あの人とうまくいかない」という形で来ます。この形だと、人事側は動きようがない。相性の問題として受け止めて、様子を見ましょうという話になります。悪意で流しているのではなく、確認できる事実が1つも無いので確認しようがないんです。

一方で、日付と場面と発言が並んでいると扱いが変わります。10月3日の定例で、他の5人がいる場で、この言い方をされた。11月12日にも同じことがあった。これは相性の話ではなく、確認できる出来事です。上長に事実確認を入れるという次の動作が発生します。

書くのはこの3つだけでいい。

  • 日付
  • その場に誰がいたか
  • 何が起きたか(言われた言葉は、そのまま)

自分の感情は書かなくていいです。書くと読み返すのがつらくなるので。

続けるコツは、毎日書こうとしないことだと思います。何もなかった日に何も書かなくていいと決めておくと、記録が「嫌なことを思い出す作業」ではなく「起きたときだけ残す作業」に変わって、負担がかなり軽くなる。実際、相談に来た人で記録を持っていた人は、たいてい数行のメモを月に何回か残していただけでした。分厚いノートを作った人はいません。

数行で足ります。

相談する順番を間違えない

ここが分岐点です。相談先には順番があり、飛ばすと戻れなくなります。

相談ルートごとに、起きることが違う

誰に言うか 同僚・仲のいい人 直属の上司 さらに上の上長 人事 何が起きるか 記録に残らない。楽にはなるが、状況は動かない 最も現実的。席や担当の変更は、ここで決まる 直属を飛ばしたことが本人に伝わることがある 記録に残る。ただし正式な確認が動き出す

まず直属の上司です。 ここを飛ばして人事に行く人が一定数いますが、これは損をすることが多い。人事にできるのは制度上の対応で、席替えや担当の組み替えのような細かい調整は、結局その部署の上司しか決められないからです。しかも人事に相談があった時点で上司には話が下りていくので、上司からすると「自分を飛ばして人事に行った」という形で伝わる。関係を先に一段悪くしてから調整に入ることになります。

直属の上司が問題の当事者である場合だけ、その上か人事へ。これは例外として当然です。

上司に話すときのコツを1つだけ書いておくと、「あの人が苦手です」ではなく「この業務の進め方を変えたい」という形で入るほうが動きます。上司の立場からすると、人間関係の相談は解決の絵が描けないので受け取りにくいのですが、業務の進め方の相談なら自分の裁量で決められる。担当の分け方を変える、確認の経路を変える、同席する会議を減らす。結果として接触が減るなら、入口はどちらでも同じです。

入口を変えるだけ。

そして人事に行くときは、記録を持っていってください。同じ相談でも、事実の並びがあるかどうかで扱われ方が変わります。 感情で来た相談は「その人の受け止め方の問題」として整理されがちで、事実で来た相談は確認の対象になる。冷たい話に聞こえるかもしれませんが、人事側は当事者双方の言い分を扱う立場なので、片方の主観だけでは動けないんです。

異動願いは、どう扱われているか

最後の手段として異動願いがあります。中身を書いておきます。

通りやすい異動願いと、通りにくい異動願いがあります。 分かれ目は、行き先が具体的かどうかです。

「今の部署から離れたい」だけだと、受け取った側にできることがありません。空きのあるポジションを探すところから始まるので、たいてい保留になります。一方で「◯◯部の△△の業務に興味がある。これまでの経験がこう活かせる」まで書いてあると、その部署の責任者に打診する、という具体的な動作が発生します。異動は玉突きで人が動く話なので、受け入れ先が乗り気かどうかで決まる部分が大きいんです。

もうひとつ現実的な話を。異動の希望は、出してすぐには通りません。 組織の人員計画は年に1〜2回のタイミングでしか動かないのが普通なので、出したことが効いてくるのは半年から1年後になります。だから早く出す。今すぐ動かないから出さない、が一番もったいない。

出しておく。それだけで選択肢が残ります。

書き方をもう少しだけ。異動願いに苦手な人の名前を書くかどうかで迷う人が多いのですが、私は書かないほうを勧めています。人の問題として出すと、人事側では「本人同士の調整が先」という整理になりやすく、異動の検討そのものが後ろに回るからです。やりたい仕事の話として出すほうが、結果的に希望の場所に近づく。同じ願いでも、乗る土俵が変わります。

距離の取り方で持たないなら、問題が人にあるのか職場の構造にあるのかを切り分けたほうが早い。切り分ける欄を転職判断シートに用意しました。

それでも変わらないなら

ここまでやって変わらないなら、それは個人の相性ではなく、その職場の構造の問題である可能性が高いです。

判断の目安を1つ。その人がいなくなったら、この会社に残りたいか。 残りたいなら、まだ打ち手があります。残りたくないなら、問題は人ではなく会社側にあるので、人間関係の対処法をいくら重ねても報われません。

不満の出どころを切り分けるところから始めてください。→ 転職すべきか。その不満は会社のせいか、職種のせいか

誰に相談するかで迷っているなら、相談相手の立場と利害を先に見ておくと安全です。→ 転職の相談相手に、中立な人はほぼいない

なお、暴言や無視が継続しているなど、相性の問題を明らかに超えている場合は社内だけで抱えないでください。都道府県労働局の総合労働相談コーナーで無料の相談ができます(厚生労働省・2026年8月確認)。会社の外に相談先があるという事実だけでも、持っておいたほうがいいです。