金曜の夕方に「これ、来週頭までにお願い」と言われる。

自分の仕事は終わっていない。それでも「わかりました」と答えてしまう。断ったら評価が下がる気がするし、感じの悪い人だと思われたくない。

その恐怖に、先に答えを出しておきます。評価が下がるのは断った人ではありません。 むしろ全部引き受けている人のほうが、評価では損をしやすい。

人事として評価を集約する側にいました。仕事量と評価点が比例していない例は、毎期のように出てきます。 なぜそうなるのか、仕組みから書きます。

全部受ける人が、評価で損をする仕組み

多くの会社の評価は、期初に決めた目標に対して点がつきます。目標管理と呼ばれるやつです。

評価表にはあらかじめ枠が決まっているわけです。その枠に入る仕事をやれば点になり、枠の外の仕事はどれだけやっても点にならない。この一点だけで、頼まれ仕事の扱いが決まります。

同じ労働時間でも、点になるものとならないもの

何をやったか 期初の目標に載っている仕事 目標外だが、成果が見える形で残った仕事 目標外で、成果が誰かの実績に吸収される仕事 目標外で、そもそも記録が残らない仕事 評価でどう扱われるか そのまま点になる 加点の余地はある。ただし上司が覚えていれば 点にならない。やった事実が本人に紐づかない 存在しないものとして扱われる

下の2行が問題です。

ここに時間が消えます。

「手伝い」の形で引き受けた仕事は、成果が依頼した側の実績になります。これは誰かが意地悪をしているわけではなくて、その案件の責任者がその人だからそうなる、というだけの話です。手伝った側の名前は、評価シートのどこにも出てこない。

起きるのはこういうことです。いつも忙しくて、周りから頼りにされていて、実際にたくさんの仕事を回している。なのに期末の評価は普通。本人は理由が分からないので、努力が足りないのだと解釈してもっと引き受ける。翌期も同じ結果になる。この循環に入っている人を、私は何人も見てきました。本人が一番真面目なんです。

しんどいですよね、これは。

もう少し正確に書くと、上司が評価をつける場面で参照するのは記憶ではなく紙です。期末に評価シートを開いて、期初に設定した目標の欄を上から順に見ていって、それぞれに対して達成度を書き込んでいく。その作業の途中に「そういえばあの人は他部署の手伝いをよくやってくれていた」という記憶が割り込む余地は、正直あまりありません。欄が無いからです。悪意でも忘却でもなく、書く場所が用意されていない情報は、そのまま落ちる。手伝った仕事を点にしたいなら、期初の目標のほうを動かすしかないんです。

断るのではなく、順番を決めてもらう

では、どうするか。

「できません」と言う必要はありません。 言うのは1つだけです。

「どちらを先にやりましょうか」

これで何が起きるか。

断るという行為が優先順位の確認に変わります。しかも判断するのは上司です。自分で断ると「引き受けない人」になりますが、順番を聞くと「持っている仕事を把握している人」になる。同じ結果になっても印象が逆に振れる。

言葉はほぼ同じです。立場が違うだけ。

具体的にはこう出します。

  • いま抱えているものを2〜3個、締切とセットで並べる
  • 「新しく受けるなら、このどれかを後ろに倒すことになります」と伝える
  • 判断を待つ

これで上司が「じゃあ後で」と言えば、断ったのは上司です。「それでも今週やって」と言えば、あなたの手持ちが多いという事実が上司の頭に入った状態で仕事が入ります。この記録が期末に効いてきます。

ポイントは抱えているものを言葉にすること。上司はあなたの手持ちを正確に把握していません。把握していないから頼めるんです。 悪気があるわけではない。

上司の手元にあるのは、部下ごとの担当業務の一覧と、進捗の報告があった案件だけです。報告のない仕事は存在しないのと同じ扱いになりますし、まして他部署から直接飛んできた依頼などは把握のしようがない。だから手一杯の人にさらに頼むという事故が普通に起きます。防ぐ方法は一つで、頼まれた瞬間に手持ちを開示することです。

その場で言う。あとからでは遅い。

場面別の言い方

型を5つ。どれも1〜2文です。

① 上司から、目標外の仕事を頼まれたとき 「お受けします。ただ今◯◯と△△を抱えていて、どれを後ろに倒すか決めていただけますか」

② 他部署から直接頼まれたとき 「私の一存で決められないので、一度上長に確認させてください」——これは逃げではありません。他部署からの直接依頼は、上司が知らないまま自分の稼働だけが増える最も危険な経路です。必ず上司を経由させてください。

③ 急ぎだと言われたとき 「いつまでに必要ですか」と先に聞く。急ぎと言われた仕事の締切が実は来週だった、というのはよくあります。締切を確認しただけで消える依頼は、体感でけっこうな割合であります。

④ 自分の専門外のとき 「私がやると時間がかかります。◯◯さんのほうが早いと思いますが、どうしましょうか」——代案を出すと、断りではなく提案になります。

⑤ 断りにくい相手(役員や大口顧客の担当)のとき ここは正面から断らないほうがいい。代わりに上司に報告だけ先に入れる。「◯◯さんからこういう依頼が来ています」と伝えておけば、稼働が増えた事実が記録に残ります。断れなくても、記録には残せる。

5つのうち、まず使うなら①です。これだけで手持ちの量が変わります。

②を軽く扱わないでください。人事側から見ていて、稼働が壊れている人の経路はたいていここでした。部署をまたいだ依頼が本人のところに直接届き、本人は断りにくいので受け、上司はその存在を知らないまま新しい仕事を振る。誰も悪意を持っていないのに、一人だけ負荷が二重になる。しかも他部署の仕事なので、その成果は本人の評価にはまず入りません。時間だけが抜けていく構造です。上司を経由させるのは、体面の問題ではなく、記録を残すための手続きだと思ってください。

一度通せば、次から楽になります。

断ったあとに、1回だけやること

これをやる人は少ないですが、印象がはっきり変わります。

引き受けなかった仕事が、そのあとどうなったかを聞く。

「先週のあれ、どうなりましたか」の一言でいい。断ったことを気にしている、という姿勢が伝わります。しかも実際に情報として役に立つ。誰が引き取ったのか、そもそも必要な仕事だったのかが分かるからです。

断ることの気まずさは、この一言でほぼ消えます。

そしてもうひとつ、これは副産物ですが、断った仕事の行き先を追いかけていると、自分の部署でどの仕事が誰のところに滞留しているのかが見えてきます。誰も引き取らずに宙に浮いたまま消えていく依頼が一定数あることに気づくと、たぶん次からの引き受け方が変わると思います。全部を引き受けていた頃には見えなかった景色です。

見えると、少し楽になります。

それでも回らないなら

ここまでは個人の技術の話でした。ですが、断り方でどうにもならない領域があります。

全員が常に手一杯で、誰に振っても倒れる。断ろうとすると業務が止まる。上司も同じ状態でいっぱいいっぱい。これは量の問題であって、あなたの伝え方の問題ではありません。人が足りていない部署に配属されているだけです。

この状態が半年以上続いているなら、断り方の記事を読むフェーズは終わっています。個人の伝え方でどうにかできる範囲を超えて、部署の人員計画そのものが破綻している状態なので、そこで自分の工夫が足りないと考え続けるのは、率直に言って割に合わない時間の使い方だと思います。会社側の問題なのか、その職種の宿命なのかを切り分けてください。→ 転職すべきか。その不満は会社のせいか、職種のせいか

評価そのものに納得がいっていない人は、面談の使い方から見直すほうが早いです。→ 評価は面談で決まらない。決まっているものを聞きに行く場です