「AIに書類を落とされたらどうしよう」という不安、転職の相談を受けているとわりと頻繁に聞きます。
気持ちはわかります。応募したのに音沙汰がないと、機械に弾かれた気がしてくる。不安になりますよね。
先に採用側の数字を見てみます。人事部門の生成AI活用率は66.5%(『人事白書2025』日本の人事部、n=6,139社、2025年3月調査)。
3社に2社。数字だけを見ると、「もう応募書類はAIが読んでいる」と受け取るかもしれません。ただ、私自身も採用側でAIを使っている人事として見ると、実際の使われ方は少し違います。
- 議事録・会議の要約: 43.1%
- チャットボットでの質問対応: 26.0%
- 通知・メールの自動作成: 20.6%
- 教育・研修コンテンツ作成: 19.5%
- 求人広告・募集要項の作成: 14.4%
- 評価・サーベイ結果の分析: 13.7%
(出典: 『人事白書2025』)
人事のAI活用66.5%の中身——採用に関わるのは下の2つだけ
上位を見てください。ぜんぶ社内の事務作業です。
採用まわりでAIが入っているのは求人票を「書く」側の14.4%と評価分析の13.7%。AIは人事の業務の一部には使われるようになっていますが、応募者を通すか落とすかという合否の判断に使われるケースは、まだほとんどありません。
なぜ判断には入らないのか——採用側の事情

人事が遅れているからではないと思っています。少なくとも私の周りでは入れない理由のほうがはっきりしている。一番大きいのは説明責任です。「なぜこの人を通して、あの人を落としたのか」。採用側はこの問いに候補者にも経営にも答えられないといけない。AIの出力を判断の根拠にすると、その理由を人事自身が説明しにくくなります。そのため、合否の判断までAIに任せることには、人事側にも大きなリスクがあります。
もうひとつ地味だけど本質的な話を。AIは過去のパターンから学びますが、「自社で活躍する人」のデータってたいていの会社でまだ整理されていません。うちも例外ではないです。学習させる正解がないのに判断だけさせられるわけがない。
だから、いま「AIに落とされた」と感じている人の書類も、実際には人事が見て判断している可能性が高いです。相手が人間なら、応募先に合わせて書類を見直すなど、取れる対策があります。
では採用側はAIを何に使っているか

私自身が使っている範囲を書きます。求人票の下書き。要件を渡して3パターン出させて、現場の言葉で直す。それから面接メモの整理。面接直後の走り書きを構造化してもらうんですが、ここは求職者側が知っておいて損がない話です。あなたが面接で話したことは以前より正確に記録に残るようになっています。「前回と言ってることが違う」は昔より発覚しやすい。
逆に書類選考の合否と評価の最終決定はAIに渡さないと決めています。
理由はさっき書いた通り。
採用側のAI活用の実情(私の場合)
ひとつ補足すると、大手や応募が数千件規模の会社ではAI以前から「機械的なふるい」は存在します。経験年数や資格でのシステム絞り込みは昔からある。ただそれはAIの賢い判断ではなく単純な条件一致です。募集要項に書かれた必須条件を職務経歴書の中に自分の言葉で明記しておくという古典的な対策がそのまま効きます。
私は転職エージェント側にいた時期もあるので言えるんですが、書類が落ちる理由の大半はAIでも条件一致でもなく「読んだ人事が30秒で判断材料を見つけられなかった」です。人事は1枚に何分もかけません。昔からです。AI時代の前からずっと。
読んでいるのが人だという前提に立つと、確かめるのは書類の中身に戻ります。出す前に見る項目は職務経歴書チェックリストにあります。
求職者側がAIを使うのは「バレる」か
逆側の話もしておきます。応募書類をAIで書く人、増えました。すごく増えた。読む側から言うと、AIで書いたこと自体は減点していません。私も求人票の下書きにAIを使っている人間なので、そこを責める筋合いがない。
ただ、AIに丸投げした書類は内容ではなく「重さのなさ」でわかります。
文章としてはきれいでも、企業名や具体的な数字が入っていないケースがあります。応募先が変わってもそのまま使える文章では、採用担当者から見たときに、その会社に応募する理由が伝わりにくくなります。これ、採用側が求人票で犯す失敗と完全に同じ構造なんですよね。自分が転職活動をしたときのことを思い出しても、書類で効いたのは文章のうまさではなく「この会社のこの求人に対して書いた」という具体でした。AIは下書きに使っていい。ただし固有名詞・数字・その会社宛ての一文は自分で入れる。採用側がやっている使い方と実は同じです。
14.4%は、これから増える
いまの実情は「あなたの書類はまだ人間が読んでいる」です。
ただこの数字が5年後も1割台かというと、そうは思いません。LINEヤフーは全従業員約11,000人に生成AI活用を義務化して、人事総務領域で月1,600時間超の削減を見込んでいます(各社報道)。いまは業務の効率化を中心に使われているAIが、今後どこまで採用判断に使われるようになるのかは、まだ分かりません。少なくとも現時点では、応募書類を判断しているのは人事です。
だから対策としてはAI向けの小手先を磨くより、「人間が30秒で判断材料を見つけられて、条件一致でも引っかかる書類」を作るのが一番合理的です。それはAIが読むようになってもそのまま通用するので。
このブログでは、採用する側から見た実際の運用について、できる範囲で具体的に紹介していきます。採用の現場にいるからこそ伝えられることは、まだあります。
出典: 『人事白書2025』(日本の人事部、2025年3月調査・n=6,139社)/LINEヤフーの生成AI活用義務化(各社報道)